劇伴倶楽部 > 腹巻猫ブログ > 追悼・池田憲章さん

追悼・池田憲章さん

評論・編集・プロデュースなど多岐にわたり活躍した池田憲章さんが、10月17日に亡くなりました。
享年67歳。かねてより病気療養中だったそうです。

私にとっては、大きな影響を受けた特撮・アニメ研究の大先輩であり、恩人のひとりです。

池田憲章さんとは旅先で会うことが多く、特にSF大会ではよくお目にかかりました(こちらもほぼ毎年参加していたので当然ですが)。

合宿型の大会だと「憲章さんが夜通し語る部屋」というのがあり、夜中に聞きに行くと憲章さんがすごいテンションで語っている。座をはずして、しばらくほかの部屋をのぞいて帰って来ると、まだ同じテンションで話し続けている、なんてことがよくありました。

仙台で「ウルトラセブンの歌」をザ・ワンダーズ(=ジ・エコーズ、つまりオリジナルメンバー)が新録音するという企画があり、取材がてら見学に行きました。そのときも憲章さんと一緒になりました。
駅からスタジオまで歩いて向かっているときだったのか…、商店街を通りながら憲章さんが隣を歩く私にすごい勢いでいろいろ話しかけてくるのです。
なにかの拍子に私がちょっと遅れて、憲章さんが先に行ってしまいました。ふと前を見たら、憲章さんが通りすがりのおばさんを相手にすごい勢いで話し続けています。おばさんは何事が起ってるのかわからずきょとんとしている。
あわてて追いついて、おばさんと位置を入れ替わり、憲章さんの隣に戻りました。憲章さんはやはりすごい勢いで話し続けている。たぶん、途中で話している相手が変わったことに気が付いてなかったでしょう。
憲章さんといえば思い出すエピソードです。

体調を崩されてからはSF大会に車椅子で参加されてました。海外ドラマを語る部屋を主催し、話はいつもと変わらぬ名調子でした。憲章さん元気だなぁと少し安心しました。

最後にお会いしたのは資料性博覧会の会場だったか…。このときも車椅子で見に来てくれました。

憲章さんはよく、「今こんなもの書いてるんだよ」と言って大きなバッグから未発表の原稿のゲラ刷りを出して読ませてくれました。でも特に感想を求めるわけでなく、そのゲラを「いいから持っておいて」とくれるのです。読んでもらうのがうれしそうでした。

晩年の憲章さんからよく言われたのは、「今のうちに○○さんとか○○さんに話を聞いておいてほしいんだ。今ならまだ聞けるんだから」。それは、自分がやりたいんだけどもう時間がない、ということだったのかもしれません。

評論や編集という仕事は時代と密着していて、あとの時代からはなかなか評価されづらいものです。特に雑誌記事やテレビに出演しての解説などは残りづらいし、忘れられてしまう。
特撮やアニメが広く社会に受け入れられ、人気を集めている今では、そうでなかった時代は想像しづらいです。今となってはインターネットやスマートフォンがなかった時代が想像しづらいのと同じように。
しかし、憲章さんたちが社会的にはほとんど無視されていた作品を語り、評価し、これまでと違う視点で観ることを教えてくれなかったら、たぶん今のような状況はないわけです。そのことを身に染みてわかっているのは「以前」と「以後」を体験している私と同世代の特撮・アニメファンでしょう。憲章さんをはじめ、多くの先達の方々には感謝しかありません。

池田憲章さんの仕事には、朝日ソノラマの「ファンタスティックコレクション」シリーズや徳間書店のSV(スーパーヴィジュアル)シリーズ、単行本『アニメ大好き! ヤマトからガンダムへ』、雑誌『アニメック』の連載など、大いに啓発され、刺激を受けました。
なかでも私が個人的にリスペクトしているのは、1987年にCBSソニーから発売されたLPレコード(CD版も発売)「栄光の東映テレビ映画 懐かしのテーマ大全集(1959~1970)」と1996年に日本コロムビアから発売された10枚組CD-BOX「東映動画長編アニメ音楽大全集」。前者は1959年~1970年の東映テレビ映画のテーマ音楽を、特撮ヒーローのみならず、大人向け時代劇、現代劇まで収録したアルバムで、ライナーノーツには渡辺岳夫や小川寛興らのインタビューも掲載。後者は『白蛇伝』に始まる東映動画長編漫画映画の貴重な音楽テープを発掘して音盤化した画期的なBOX。解説書も充実した内容ですし、いまだこのBOXでしか聴けない音源があります。いずれも原点をしっかりアーカイブして残そうという強い思いが感じられます。

憲章さんとのおつきあいは、それほど長く、深かったわけではありませんが、私は勝手に「バトンを渡された」ような気持ちでいます。たぶん憲章さんはたくさんのバトンを持っていて、種を蒔くようにそれを残していったのでしょう。私は自分にできることで、思いを継いでいきたいと思います。

池田憲章さん、ありがとうございました。どうぞ安らかに。

訃報:日本SF作家クラブのTwitterより
https://twitter.com/sfwj/status/1601534997646946306

「池田憲章さんてどんな人?」という方は、中島紳介さんのこちらの著書をお読みください。
PUFFと怪獸倶楽部の時代 ―特撮ファンジン風雲録―

ファンタスティックコレクション ウルトラセブン SVシリーズ スーパーマリオネーション

アニメ大好き!ゴジラ99の真実

栄光の東映テレビ映画 懐かしのテーマ大全集東映動画長編アニメ映画音楽大全集