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「明日ちゃんのセーラー服」と「その着せ替え人形は恋をする」

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もう4月になってしまいましたが、3月で放送終了し、あちこちで“ロス”の声が聞こえるアニメ『明日ちゃんのセーラー服』と『その着せ替え人形は恋をする』の話。ちなみに「明日ちゃん」は「あけびちゃん」、「その着せ替え人形」は「そのビスク・ドールは」と読みます。

私もTV放送と動画配信でしっかり観てました。

2作ともアニメ制作がCloverWorksということで、ちょっと似たテイストがあります。特に女性を描く作画の密度の高さ。上気する肌や瞳の輝きや髪の毛の表現、ディテールにこだわった衣服の描写など。そういえば、どちらも衣装が重要な要素となる作品です。

『明日ちゃんのセーラー服』は背景も含めた映像が細やかで美しい。そして、布の質感や重さまで感じさせる、フェティシスティックに見えるほどの衣服の描写に目をひかれます。 舞台が女子高ということもあり、秘密の日常をのぞき見ているような瞬間があってドキドキします。
物語は格別ドラマティックなことも起こらず、地方の女子高校生の日常をゆったりと描く、ふんわりした作品。
しかし、それが目的ならここまでフェティシスティックな描写は必要ないはず。
観ているうちに、これは一種のアイドル映画、ファッション映画なのだと思いました。
ヒロインを魅力的に見せる、衣装を美しく見せる、実写でいうフォトジェニックみたいなことをアニメでやろうとしている。
映像が美しいほどに、過ぎていく時間や若さへの愛しさがこみあげてくる。これもアイドル映画の常道です。

いっぽうの『その着せ替え人形は恋をする』はもう少しポップな作品ですが、コスプレを題材にしているのが特別で、面白いところ。こちらも着替えのシーンがよく出てくるので、観ていてドキドキすることが多い。
しかし、主人公の男子・五条くんがドキドキしたり、うろたえたりしてくれるので、うしろめたさが薄まります。
最初は、あまりぱっとしない男子に美少女が恋してくれる、願望充足アニメ(私が勝手に呼んでいる)かと思っていたのです。
ところがこれも観ているうちに印象が変わって、むしろ逆なのだと思うようになりました。
コスプレ好きのヒロイン・海夢(まりん)が恋をする。自分の気持ちにとまどいながらも、小さなことに一喜一憂し、距離を近づけようとする。
その過程が着替えシーン以上にドキドキします。 少年向けに見えて、実はすごく少女漫画的。『その着せ替え人形は恋をする』って、内容を的確に表現したうまいタイトルだと思いますね。

音楽もよかった。
『明日ちゃんのセーラー服』の音楽は昨秋のアニメ『見える子ちゃん』の音楽を担当したうたたね歌菜さん。ピアノを使った瑞々しい音楽が素敵でした。『見える子ちゃん』の音楽に注目していたので、『明日ちゃん』は放送前から楽しみにしていたのです。
『その着せ替え人形は恋をする』の音楽は中塚武さん。こちらはコミカルな場面が多いこともあり、ギターやシンセを使った軽快な音楽が心地よい。私が中塚さんの名前を覚えたのは『セクシーボイスアンドロボ』というドラマでした。

サントラはどちらもBlu-ray/DVD同梱でのリリース。単体リリースでないのは残念ですが、盤になるだけありがたいと思うべきかもしれません。
『明日ちゃんのセーラー服』は限定版第4巻~第6巻、『その着せ替え人形に恋をする』は限定版Vol.1とVol.3にサウンドトラックが同梱されます。

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「平家物語」はすごかった

平家物語 オリジナル・サウンドトラック

フジテレビの「+Ultra」枠で放送されていたアニメ『平家物語』が終了しました。

最終回まで観ました……。

すごいものを見せてもらったなぁ。
脚本も映像も演出も、すべてが高次元。
くらくらして咀嚼が追い付きません。

放送を録画していたのですが、いつも配信動画をパソコンで観てました。
集中して観たいから。
音もヘッドフォンで聴きたい。
そのくらい、密度が高い。

一見、日本の伝統絵画風に見える渋い画作り。でも、キャラクターはシンプルな線ながら立体感をもって描かれているし、構図も平面的に見えて奥行きがある。計算された構図、さりげなく画に陰影を与えるエフェクトなど、細かく見れば見るほど、考え抜かれ、手をかけて映像化されているのがわかります。

物語も、びわというふしぎな目を持つ少女を設定したことで、多層的な視点を持つものになっている。びわには登場人物の行く末が見えている。それは視聴者であるわれわれの視点でもある。そのことが「平家物語」の無常観を際立たせます。
びわには定められた運命を変えることはできない。スティーブン・キングの『デッド・ゾーン』を思わせます。でも、びわは平家の人々を記憶し、語り継ぐことで、この世から消えたものを永遠のものにしようとする。人の世の営みとは、人生とはなんなのか、そんなことを考えさせられます。

と、とりとめもなく書いてみましたが、この作品はもっと奥深い。まだまだ読み解けません。

個人的には、キャラクター原案に高野文子さんが参加しているのがツボでした。
なので、『わたしたちが描いたアニメーション「平家物語」』も電子書籍版を買いました。
電子版特典に「高野文子キャラクター原案・イメージスケッチ 2P(紙書籍版未収録カット)」が付いてくるのです。

わたしたちが描いたアニメーション「平家物語」表紙

あと驚嘆すべきは牛尾健輔さんの音楽。
『平家物語』に電子音楽……。予想外というか、牛尾さんが参加した時点で予想はできたのですが、それでも「こうくるか!?」という驚きがあります。
サントラはCDとアナログ両方買いましたよ。
これもまだじっくり聴けていない。
3/26発売の『CONTINUE Vol.76』に「山田尚子(監督)×牛尾憲輔(音楽)10,000字対談」が載るそうなので、それ読んで、本編再見しながら聴こうと思います。

CONTINUE Vol.76表紙

ドライブ・マイ・カー

ドライブ・マイ・カー

話題の映画『ドライブ・マイ・カー』を観ました。

実は私は村上春樹がちょっと苦手…。
でも、映画はとてもよかったです。

上映時間3時間(179分)の長さをまったく感じない。
映像と芝居の密度の高さ、そして、サスペンス的要素と語り口の巧みさがあいまって、まさに優秀なドライバーの運転に身をゆだねて車に乗っている気分で観ました。

映画の中では、過去と現在、演劇と現実、嘘と真実、死者と生者、さまざまな要素が重なり合い、物語が二重三重に見えてくる。
そういうところは村上春樹っぽい(私のイメージです)。

風景を巧みに切り取った映像や環境音を生かした音響も印象的。
特に役者の「声」が圧倒的な存在感で響いてきます。
映画の中で「声」はとても重要な役割を担っているので、これは演出のねらいなのでしょう。

石橋英子さんの音楽もよかった。
メロディを聴かせるタイプの音楽ではなく、サウンド感重視の演出。
音楽の入りと抜きのタイミングが絶妙です。芝居をじっくり見せるところは音楽を入れず、緊張がふっとゆるむタイミングで音楽がすっと入ってくる。
実に効果的だし、気持ちいい。

最後のエピローグの場面で、現実に引き戻されました。
劇中劇のチェーホフの芝居の台詞が今われわれが生きる現実と重なってきます。

ブルーサーマル

ブルーサーマル

公開中のアニメ映画『ブルーサーマル』を観ました。

いい映画でした。

観客が私含めて2人しかいなかったのがもったいない。

あまりにもったいない。

ただ、東映チャンネルでよく流れているスポットCMを見ても、「お、観よう!」という気にあまりならないんです。
なかなか魅力をうまく伝えきれないもどかしさがあります。

大学の航空部(グライダースポーツ部)を舞台に、初めてグライダーに乗る新入部員の女の子が活躍する話。
とまとめると、「近頃よくある女の子部活ものかー」と思ってしまう。
けれど、そういうのとはだいぶん違う。

かといって、「さわやかなスポーツ青春アニメ」とまとめてしまっては、ありきたりすぎて、こぼれるものが多い。

これは、

ズバリ言って、

「エースをねらえ!」ですよ。

作者もスタッフも意識してないと思います。
でも、相通じる要素がある。
100分の映画の中に成長と感情のドラマが、それも群像ドラマがしっかり詰まっています。
空を駆けるようなスピード感で。

1クールか2クールのシリーズものでやってほしいなぁ。

映像作品としては、空を飛ぶこと、風に乗ること、その爽快感、自由さが、アニメならではの表現で描かれているのが大きな魅力です。
グライダーを操縦する描写がもう少しあればよかったと思うけれど、映画の限られた時間ではそこまでは踏み込めなかったのでしょう。
主観で空を飛ぶ描写がもっと見たかった。

音楽が劇場用アニメの音楽を本格的に手がけるのは初めてという海田庄吾さん。
パンフレットに海田さんのコメントはないけれど、今発売中の『月刊Newtype(ニュータイプ)』(2022年4月号)の別冊付録が1冊まるまる『ブルーサーマル』特集で、海田さんのインタビューが載っています。緻密な音楽プランをもとに作曲されていることがわかる。
それを読んでから映画を観ると、より楽しめます。

実は、大学に入って最初にクラブ勧誘の説明会を聞いたのが、航空部だったのです。
小さな部室で活動内容を紹介する手作りビデオを見せてもらったりしたものの、結局、入部はしなかった。
でも、一度くらいグライダーに乗せてもらえばよかったかなぁと思っています。
そういう機会は、それ以来なかったから。
映画を観ながら、そんなことを思い出していました。

その母校の航空部は、映画のエンドクレジットに「取材協力」として名前が出ています。

ニュータイプ付録

アニメーター・大橋学さん追悼上映会

追悼上映会パネル1追悼上映会パネル2

3月5日、6日の2日間、去る2月に逝去されたアニメーター・大橋学さんの追悼上映会に参加してきました。
会場は三鷹産業プラザ。

3月5日の1日目は、

『元祖天才バカボン』第29話「天才バカボンの劇画なのだ」
『ガンバの冒険』第26話「最後の戦い大うずまき」
『宝島』第26話「フリントはもう飛べない―」
『あしたのジョー2』第47話「青春はいま…燃えつきた」
アニメ映画『風のように』

というプログラム。

出崎アニメ最終回3連発は強烈、しかし至福の時間でした。

『風のように』はサントラ持っているのに本編を観るのは初めて。
クラウドファンディングで資金を集め、エクラアニマルが制作した、ちばてつや原作のアニメ映画。昭和の香りがする良作です。

上映終了後、野口征恒さん、本多敏行さん、エクラアニマルの代表・豊永ひとみさんの3人によるトークセッション。
大橋学さんの思い出、出崎統監督とのかかわり、上映作品で大橋さんが担当したカット(『バカボン』はエピソード全体、『ガンバ』はBパート、『宝島』はラストのシルバーのふり向きなど、『ジョー2』は葉子の告白、狂乱するホセなど)の紹介、『風のように』の制作裏話など、興味の尽きない内容でした。
もうろうとするジョーの瞳の中にUFOを描いたというエピソードが面白かったです。

3月6日の2日目は、

『ちびねこトムの大冒険-地球をつなげ仲間たち』
『ユニコ』
『ロボットカーニバル』

のアニメ映画3本立て。

実は『ちびねこトムの大冒険』と『ロボットカーニバル』は初見、『ユニコ』はだいぶん昔に観たきり。ありがたいプログラムでした。

『ちびねこトムの大冒険』は大橋学さんがキャラクターデザインと作画監督を担当。童画風のキャラクターの動きが小気味よい。キャラはかわいいのにお話は壮大です。
いちばん驚いたのは、音楽が川井憲次さんだったこと。主題歌も! サントラほしいです。

『ユニコ』はどちらかといえば、杉野昭夫さんの個性が出た作品。
大橋さんは黒猫チャオの音楽シーンを担当。イルカの歌をバックにチャオの夢の世界を描く、キュートでメルヘンチックな「みんなのうた」みたいな場面ですね。ここはまさに大橋学さんの世界。
話はそれますが、チャオの声が杉山佳寿子さん。ユニコの魔法で人間の少女に変身したときの愛らしさがたまりません。

『ロボットカーニバル』は8人のクリエイターによるオムニバス作品。ロボットをモチーフにした、それぞれに個性的な短編が並びます。
その中でも、マオラムド名義で参加した大橋学さんの作品は異彩を放っている。物語もなく、動きを追求するでもなく、線画による抒情詩…とでも呼ぶべき一篇。とても大橋学さんらしい。

上映後は、丸山正雄さん、北久保弘之さん、森本晃司さんによるトークセッション。
みなさん旧知の仲ということで、リラックスした雰囲気で進みました。リラックスしすぎの感もありましたが…。
最後に、会場にいた大橋学さんの教え子(大橋さんはアニメーションの学校で講師を担当されていました)が語ってくれた講師としての大橋さんの姿がとても印象深かったです。

以上で2日間の追悼上映会は終了。充実した内容で大橋学さんを偲ぶことができました。スタッフ、出演者のみなさま、ありがとうございました。
欲を言えば、トークセッションでも触れてましたが、『金の鳥』の上映があればよかったですね。作品自体はAmazon Prime Videoやdアニメストアなどの配信で観られますが、大きいスクリーンで観たいなあ。
そうそう、『ちびねこトムの大冒険』は4月に阿佐ヶ谷のMorc阿佐ヶ谷(旧ユジク阿佐ヶ谷)で上映があるそうです。 https://www.morc-asagaya.com/film/ちびねこトムの大冒険/

大橋学さんの名前を覚えたのは『宝島』です。
あのユニークな絵柄のオープニングとエンディングの作画を担当したのが大橋さんでした。
出崎監督作品といえば杉野昭夫さんのイメージが強いですが、出崎監督本人が描く絵にいちばん雰囲気が近いのが大橋学さんの絵なんですよね。
大橋学さん、すばらしい作品の数々をありがとうございました。

入場者特典

グッバイ、ドン・グリーズ!

グッバイ、ドン・グリーズ!

公開中のアニメ映画『グッバイ、ドン・グリーズ!』を観ました。

まったく予備知識なしに観に行って、なんとなくSFっぽいなぁと思っていたので、「いつかSFになるのかな…?」と思いながら観てたんですよ。

ごめんなさい。
まったくSFではなくて…、こそばゆくなるくらいの、ストレートな青春アニメでした。

『宇宙よりも遠い場所』のいしづかあつこ監督・脚本によるオリジナルアニメ映画。
主人公は、まっすぐで、孤独を抱えた少年たち。吉田秋生さんの漫画みたい。
地方の小さな町を舞台に、ひと夏の冒険が描かれます。
ちょっと切なく、でも、すがすがしい気分になる映画です。

いい映画なのに、タイトルで損している気がしますね。
「ドン、グリーズ」と区切らず、「どんぐりーず」って読めばいいんだと映画を観てわかりました。
ぱっと見ただけでは覚えにくいし、どんな内容か、わからない。
映画を観たら、たしかにぴったりのタイトルではあるのですけど。

下は来場者特典の小説冊子。

特典冊子

ゾーイの超イケてるプレイリスト

 : アルバム・ジャケット

ミュージカルといえば、昨年スーパードラマTVで放送されて気になっていたのが『ゾーイの超イケてるプレイリスト』というドラマ。
最近、シーズン2放送前に集中放送されたので初めて観ました。

格別ミュージカル好きというわけでもないのですが、これは実に楽しかった。

IT企業に勤めるゾーイは、とある事故をきっかけに突然他人の声がミュージカルになって聞こえるようになる…という設定のドラマ。
ゾーイが街を歩いていると、道行く人が突然歌い踊り出す、というミュージカル特有の状況が起こって、ゾーイは驚いてしまう。でも、それはゾーイに見えているだけ。現実には誰も歌ったり踊ったりしていないのです。
ミュージカルの違和感を笑いに置き換えたコメディですね。

この設定を知ったとき、往年の人気ドラマ『アリー My Love』に出てくる妄想シーンみたいなものかと思ってたんですよ。
『アリー My Love』でも主人公のアリーが小人を見たり、同僚を巨大トンカチで叩き潰したり描写がある(あったと思う)。アリーの心の中の妄想です。
ゾーイの場合も、周囲の人がふつうにしゃべっていることやゾーイが想像したことが、ミュージカルになって見えてるのかと…。

ところが、実はゾーイが聞いているのは、その人が心の中に隠している本音。つまり、ゾーイは人の心が読めるのです。
ミュージカルは実はテレパシーの描写だったのですよ。これはびっくりしました。
SFドラマだったのかぁ。

SFといっても基本はラブコメなので、ゾーイの能力をめぐって秘密機関が暗躍するようなことはない。
ゾーイの力は恋愛や友情、家族の問題を解決するため(とギャグのため)に使われるだけ。
ゾーイは自分の力をコントロールすることができず、町中でも職場でも実家でも、突然(自分にしか見えない)ミュージカルが始まってしまうので困惑する。ゾーイにとってはありがたくない、やっかいな能力なのです。
この、あまり役に立たない超能力描写は、SFとしても現代的。コニー・ウィリスの『クロス・トーク』を思い出してしまいました。

あるエピソードでは、同僚が突然歌い出して、ゾーイが「また始まった…」と無視していると、実はそれは仲間がしくんだフラッシュモブだった(つまり実際に歌っていた)というギャグがあり、笑ってしまいました。

コメディとはいえ、ミュージカルシーンはなかなか本格的。かの『ラ・ラ・ランド』の振付師も参加しているというのですから。
それにゾーイを始め、歌って踊れる役者をキャスティングしているのもすごい。メインキャストだけでなく、脇役や端役に至るまで、いざとなるとミュージカルができる人をそろえている。
こういうところは、向こうの俳優の層の厚さを感じます。

劇中のミュージカルシーンで歌われているのはオリジナルナンバーではなく、すべて既成曲。
ポップスのヒットナンバーなどが使われています。
洋楽に詳しかったら、「ここでこの歌か!」という楽しみ方もあるのでしょう。

今は先週から放送が始まったシーズン2を楽しみに観ています。しかし、本国では人気が伸びず、シーズン2で終わっちゃったそうなのです。残念。

ゾーイの超イケてるプレイリスト(スーパードラマTVの番組紹介ページ)

各エピソードで使われた曲がデジタルアルバムとして配信されています。

 : アルバム・ジャケット

 : アルバム・ジャケット

ウエスト・サイド・ストーリー

ウエスト・サイド・ストーリー

 スティーブン・スピルバーグが監督した映画『ウエスト・サイド・ストーリー』 を観ました。

スピルバーグ、やはりすごいなぁ。

これは、1961年公開の映画『ウエスト・サイド物語』のリメイク、というより、その原作であるブロードウェイ・ミュージカル(舞台)の新たな映画化。
しかし、ミュージカルと思って観に行くとちょっと意表をつかれるというか、圧倒的に、映画でありドラマです。

ミュージカルといえば出演者が突然歌い出すイメージがあるけれど、本作は、セリフがいつの間にか歌になり、芝居がいつの間にかダンスになる。 開幕直後にジェット団が歌い踊るシーン、「いや、これが俺たちの日常なんだよ」と言われても納得してしまいそう。
ミュージカルらしい華やかなシーンもあるんですが、重要なナンバーではリアルな芝居と乖離しない緊張感のあるパフォーマンスが観られ、ドラマに引き込まれます。

画(映像)の力もすごい。計算された構図、彩度を抑えた色彩、スリリングな移動ショット(物語の背景を1カットで見せるオープニングがすばらしい)。 低い視点からのショットや俯瞰のショット、アップの多用も印象的。
スピルバーグ、こんなにアップ好きだったっけ、と思ってしまいました。

ラブストーリーではあるけれど、苦い後味が残る。社会派サスペンスドラマ映画みたいな印象。古い映画で恐縮ですが、『チャイナタウン』みたいな。
今、この映画を世に出す意義も伝わってくる。
ミュージカルでなくてもいいのでは?という気もしますね。
しかし、やはり、バーンスタインの名曲あっての作品なので、音楽シーンがなくてはなりたたない。
絶妙なバランスでミュージカル映画のスタイルにはまりきらない作品を作り上げている。

「スピルバーグがミュージカル撮ったんだ、楽しそう~」と気楽に観に行くと、がつんと衝撃を受けてしまいそうな力作です。

鹿の王 ユナと約束の旅

鹿の王 ユナと約束の旅

こういうのを「骨太の作品」と呼ぶのでしょうね。

公開から少し経ってしまいましたが、アニメ映画『鹿の王 ユナと約束の旅』を観てきました。
作品世界を生きた気分を体験させくれる…濃厚な映画でした。
堪能しました。

原作は『精霊の守り人』の上橋菜穂子。 けっこう込み入った設定と物語の大作です。それに真正面から挑んで美しくダイナミックなアニメーション映画に作り上げた。そんな印象を受けました。

作画がすごく丁寧で、アクションシーンもさることながら、なにげない芝居や動物の動きがうまい。思わずはっとします。
異世界を構築する美術がすばらしい。懐かしいようで、見たことのない、でもどこかにありそうな世界を中間色の多い柔らかいタッチで描いている。幻想絵画みたいな味があります。

メインのキャラクターを演じているのは、いわゆる声優さんではなく俳優さん。これがすごくよかった。事前にキャストを知らなかったので、「えっ、誰だろう?」と思ってしまいました。けっこう意外でした。

そして、富貴晴美さんの音楽。ヨーロッパでもないし、アジアっぽいけど現実のアジアでもない、架空の世界を描写する音楽ということで、苦心されたのではないかと思います。
民族音楽的な要素を盛り込みつつ、浮わつかず、鳴らしすぎず、でもしっかりとドラマを支えて、かつ耳に残る、絶妙なバランスの音楽になっている。
空想をふくらましていくハリウッド的なファンタジー映画音楽の方向じゃないんですね。異世界で撮ったドキュメンタリー映画の音楽みたいな、現実感のある音楽になっている。かといって地味なわけではない。その塩梅が実にうまいなと思いました。
パンフレットのコメントで富貴さんが音楽作りの工夫を語っています。音楽の柱となる主人公ヴァンのテーマにはトロンボーンを使って、勇ましさと同時に切なさも表現できるようにした。また、ストリングスは低音を強調するためにヴィオラやコントラバスの人数を多めにして録音したそうです。結果、地に足が付いた(変な表現ですが)音楽に仕上がっている。
いっぽうで、神秘的・幻想的なシーンに流れる女声ヴォーカルや合唱を使った音楽も印象的でした。

観に行ったのは休日で、子ども連れのお客さんんもけっこう来ていました。 主人公はおじさんだし、けっこう歯ごたえのある作品なので、子どもたちが飽きちゃうかなと思ったら、ぜんぜんそんなことはなくて、最後までおしゃべりすることもなく観ていました。
なにかしら感じるところがあったのでしょう。
心に残るものがあったらいいなと思います。

 : アルバム・ジャケット

『地球外少年少女』後編

『地球外少年少女』後編

公開まで待てない…とか言っておいて、1週間遅れでようやく観てきました。

『地球外少年少女』後編「はじまりの物語」

予想以上にSFだった…。

前編で張られた伏線がああなって、こうなって、物語は宇宙でのサバイバルだけに収まらない方向に向かっていく。そのドライブ感にぞくぞくします。

そもそも昔から危機的状況をテクノロジーと人間の知恵で乗り越えるドラマが好みなんです(『宇宙戦艦ヤマト』第1作もそう)。時代遅れになった技術が思わぬところで力を発揮する展開なんてぐっときます。
そして、その先に、人類の進化、知性とはなにか?というSFの永遠のテーマに触れていく。
しびれました。
前編はクラークの「渇きの海」、後編は同じクラークの「幼年期の終わり」って感じでしょうか。
少年時代にSFを読んで感じたピュアなセンス・オブ・ワンダーがよみがえってくるようで、初心にかえる思いでした。

配信で観るのをがまんして劇場で観たおかげで、臨場感、没入感が最高。
前回は宇宙、今回は電脳世界にダイブするような気持ちを味わいました。

ラストシーンの画がいいですよね。
私は小松左京のジュヴナイルSF『青い宇宙の冒険』を思い出していました。

来場者特典の複製原画