腹巻猫のブログです。
主にサウンドトラックやコンサート、映像作品などについて書いています。
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機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島
映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』を観ました。
『機動戦士ガンダム』TVシリーズ第1作の1エピソードをふくらませた新作アニメ映画。監督は第1作のキャラクターデザイン・作画監督を務めた安彦良和。第1作の雰囲気と現代的な解釈・描写が絶妙にブレンドされています。
これはガンダムファン以上に安彦良和ファンが観て楽しい作品ではないでしょうか。
なんたって、キャラクターの表情や芝居が安彦さん描く漫画のコマそのまんま。観ていてニヤニヤしてしまいました。
ガンダム映画としては、また会えると思ってなかったあんなキャラやこんなキャラの登場にときめきました。
第1作の音楽を何曲かアレンジして使ってるのもいい。そのアレンジの仕方がひとひねりあっていい。
せっかくだから、第1作のために録音されたものの一度も使われなかった子どもたちのテーマ(ハイジのBGMみたいな曲)も使ってほしかったなー。
『わが青春のアルカディア』と田島令子さんトークショー
5月29日、新文芸坐で映画『わが青春のアルカディア』と田島令子さんのトークショーを観覧しました。
『わが青春のアルカディア』は公開当時劇場で観て以来。
当時は、登場人物をひたすら追い込む(不自然なまでの)筋立てや時代がかった台詞に「うーむ」と思った記憶があります。40年経ってもその印象は大きくは変わらない。
しかし、泣かせるシーンや台詞を集めた『忠臣蔵』みたいな映画だと思って観ればなかなか楽しい作品です。松本零士作品のエッセンスが集まっているし、なにより、その泣かせる芝居を当時の人気声優・実力派声優・俳優が演じているのがたまりません。いってみれば、東映オールスター時代劇。
プロローグ部分でハーロックの先祖を演じているのが石原裕次郎。当時から話題になりました。
本編に入ると、井上真樹夫(ハーロック)、富山敬(トチロー)を筆頭に、武藤礼子(マーヤ)、田島令子(エメラルダス)、池田秀一(ゾル)、森山周一郎(老トカーガ兵)、石田太郎(ゼーダ)、青野武(ムリグソン)、高木均(トライター)、柴田秀勝(黒衣の指揮官)、増山江威子(スタンレーの魔女)と洋画吹替みたいな布陣。渋い声のおじさまが多いのが松本零士作品ならでは。それに、山本百合子(ラ・ミーメ)、鶴ひろみ(ミラ)と若手俳優が加わる。
この頃、『宇宙戦艦ヤマト』の真田役が人気だった青野武さんが悪役をノリノリで憎たらしく演じているのが楽しい。石田太郎さんが演じるゼーダは、カリオストロ伯爵とは打って変わって、男気のある宇宙のサムライ的なキャラ。増山江威子さんが笑い声だけというのもぜいたくな使い方です。
なんといっても私がキュンとなったのは、マーヤ役の武藤礼子サマ。上品でやさしく、艶っぽい。エメラルダスの田島令子さんがかすんでしまうほど(個人の感想です)。なんたってエリザベス・テイラーの声ですから。武藤礼子さんは『1000年女王』にも出演していますが、ヒロインではない。この映画ではハーロックの恋人役だから、エメラルダスより彼女がヒロインといって差し支えないでしょう。武藤礼子サマの松本零士ヒロインが観られるだけでも、この映画は価値がありました(個人の感想です)。
終映後、田島令子さんのトークショー。田島令子さんは昨年、TVバラエティ番組『武田鉄矢の昭和は輝いていた』(BSテレ東)にゲスト出演されていました。そのときと同じで、さばさばしたきっぷのいい女性といった雰囲気。ステキです。
『バイオニック・ジェミー』のジェミーやクイーン・エメラルダスへのキャスティング秘話、ラジオドラマとアニメとの演技の違いなどを話してくれました。
隅田川を運航している松本零士デザインの水上バスの船内ガイド音声を田島令子さん、池田昌子さん、野沢雅子さんが(松本零士キャラとして)担当していて、その録音裏話も。東映で一緒に録ったそうです。
特別に生前録音された井上真樹夫さん80歳のときのメッセージも流れました。年齢を重ねてもカッコよかったですね。
ハケンアニメ!
映画『ハケンアニメ!』よかったです。
アニメ業界に詳しい人は「そりゃないよ」とか「これはあれね」とか、いろいろ思うところがあるかもしれませんが、私は純粋に「お仕事映画」として楽しみました。
主人公は初めてTVアニメのシリーズ監督をまかされた女性演出家・斎藤瞳(吉岡里帆)。ところが、彼女が業界に入るきっかけになった憧れの監督・王子千晴(中村倫也)の久しぶりの新作が、同じ時間帯に放送されることになる。
瞳は宣伝のためにセッティングされた王子との公開対談で、2つの作品が対決する形になったことについて聞かれ、「勝ちます。覇権を取ります」と宣言。最高の作品を作るべく制作にのめりこんでいく。
『ハケンアニメ!』の「ハケン」は「派遣」ではなく「覇権」のことだったんですね。
作品作りの描写はアニメ好きには興味深い。誇張や現実的でないところもあると思うけれど、もの作りへの想いが強烈に伝わってくる。いっぽうで、瞳が番組の宣伝のために制作以外のことに振り回されるのも、いかにもありそうで面白い。
ノリは『がんばれ!ベアーズ』+『エースをねらえ!』っぽい。圧倒的に不利な主人公側がさまざまな試練を乗り越え、経験値を高めて勝ちをめざす。その構図はスポ根もの的です。
ただ、題材はスポーツではなくチームでの作品作りなので、ポイントを取って勝つだけではない複雑さがある。さまざまな職種の人と利害がからむ、ビジネスとしてのもの作りであるがゆえの苦心や苦悩や闘いがある。そこに引きこまれます。
アニメ業界でなくても、ビジネスでチームを組んで仕事に取り組んだことがある人なら、特にリーダー的な仕事を経験したことがある人なら、身につまされること、共感することがあるのではないでしょうか。
そして、映画は、なぜ人がフィクションを必要とするのか、フィクションを生み出そうとするのか、という普遍的なテーマにも食い込んでいく。
それがすごくよかった。
音楽は実写(映画・ドラマ)とアニメの両方で活躍する池頼広さん。
現実パートではピアノソロやバンドサウンドなどで、劇中アニメの音楽はオーケストラサウンドで、と音楽性を変えてメリハリをきかせています。
しかし、クライマックスでは、劇中アニメの音楽として流れていた曲が、現実パートの曲としても意味を持ち始め、劇中アニメの枠を越えて流れ続ける。
フィクションとリアルがつながるメタフィクション的な演出を音楽でやってしまっている。
それが感動にもつながる。
「え? なにが起こってるの?」とぞくぞくしました。
これから観る方は、ぜひ音楽にも耳を傾けてご覧ください。
樹村みのり展
明治大学 米沢嘉博記念図書館で開催中の「樹村みのり展」に、やっと行ってきました…。
不覚にも2月からやっていたのを気づかず、知ったのが4月。
しかし、なかなか行く時間が取れず、ようやく今日行けたわけです。
なにせ、米沢嘉博記念図書館は火曜・水曜・木曜が休館日。平日は月曜と金曜しか開館してない。
土日に外出したくない(人混みが苦手なので)身としてはなかなかハードルが高いのです。
展示スペースは入場無料。
広くはないものの、展示棚をうまく使って、可能な限り多くの原画を展示してます。
「病気の日」「海へ…」「悪い子」「菜の花畑シリーズ」など、愛読していた作品の原画が観られて感激です。
しっかりとした意思を感じさせる少女の瞳や顔のライン、初期の作品に特徴的なカケアミや書き文字なんかに目を惹かれました。
近年描かれた猫の絵も展示されています。
樹村みのりさんは、少年時代にファンになった大好きな漫画家。
最初の出会いは小学校高学年時に読んでいた雑誌『COM』だったと思う。
「おとうと」「解放の最初の日」「お姉さんの結婚」など、小学生にはよくわからないところもありましたが、妙に心をつかまれ、印象に残りました。
で、高校生になった頃、フラワーコミックスの『ポケットの中の季節』1、2や朝日ソノラマのサンコミックス『雨』『ピクニック』などが次々と発売され、さらに雑誌『プチコミック』での樹村みのり&ささやななえ特集、まんが専門誌『だっくす』での樹村みのり特集など、ちょっとした樹村みのりブームに。「菜の花畑シリーズ」が発表されたのもこの頃ですね。
樹村みのり作品には社会的なテーマを扱ったものもありますが、少年少女の、あるは女性の、繊細な心理を描いたものが多い。
日常の中で気づかない、もしくはふだんは忘れているような心の動き、疑問、願いなどをやさしい筆致で表現してくれる。
読んでいて、はっとすることがたびたびあります。
好きなのは「菜の花畑シリーズ」と「お姉さんの結婚」「40-0(フォーティーラブ)」。ほかにもいろいろ。
展覧会を観て、熱心に読んでいた当時を思い出しました。
しかし、今まで行けなかったのは痛恨。
会期は2月から6月までですが、1期~4期に分かれていて、それぞれ「子ども」「菜の花・家族」「人間と社会」「少女・女性」をテーマに展示も一部変わるのだそうです。
結局、4期しか観れなかった…。
いつか、もっと大きい会場で(弥生美術館あたりで)展覧会をやってほしい。
もう1回くらいは行きます。
樹村みのり展は6月6日まで。
https://www.meiji.ac.jp/manga/yonezawa_lib/exh-minori.html
開楽のジャンボ餃子
池袋へ出たので、久しぶりに「開楽」で生餃子買ってうちで焼きました。
開楽は池袋東口にある中華料理店。
ジャンボ餃子で知られています。
とにかく巨大。
フライパンに入りきらないほど。
しかし、一緒に入っている「焼き方」通り焼けばうまく焼けます。
コツは最初にたっぷりの熱湯でゆでること。
水ではなく熱湯を入れるのがポイントです。
仲には肉がぎっしり。
大きいだけでなくおいしいのだ。
餃子好きにはたまりません。
もちろんお店でも食べられます。
☆開楽Webサイト
http://kailaku.jp
劇場版『エースをねらえ!』と森功至さんトークショー
5月22日、新文芸坐の劇場版『エースをねらえ!』& 森功至さんトークショーを観覧しました。
1日2回公演の2回目。
森さんのトークから。
森さん、お元気で今でもいい声だよなぁ。
若いときはシュッとした2枚目だったのが、今はいい感じのカッコいいおじさんになっている……という雰囲気。
『キューティーハニー』のアドリブの話、ナレーションの仕事の話など、貴重なエピソードが聞けました。
そのあと、劇場版『エースをねらえ!』上映。
何度観たかわからない映画ですが、劇場で観ると特別な感慨があります。
先がわかっているのにぐいぐいと惹きつけられる。
そして、心の奥に火を灯されたような気持ちになる。
がんばって生きなきゃ、と思って劇場を出ました。
「時間を無駄にしてはいかん……!」
歳をとるにつれ、宗方仁の言葉がますますもって胸に響きます。
5月29日は『わが青春のアルカディア』上映と田島令子さんトークショーが予定されています。
☆劇場都市としまエンタメシアター in 文芸坐のイベントページ
https://bungeisp.wixsite.com/entertainment/
「シン・ウルトラマン」を観た
5月13日公開『シン・ウルトラマン』。
初日にIMAXで観てきました。
未見の方のために内容には触れませんが、ビジュアル、ストーリー、演出、音楽、すべての面で堪能しました。よかったです。
私はオリジナルのテレビ放送をリアルタイムに観た世代。
「観た」どころではなく、幼少期は重症のウルトラマンファンでした。
その私が観ても、ノスタルジーとかではなしに、驚異に満ちた、抜群に面白い空想特撮映画に仕上がってると思います。
『ウルトラマン』のファンが観れば、「こう来たか!」と思うところや「これはこうだよね」と深読みできるところなど、いろいろな楽しみ方がある。
けれど、『ウルトラマン』を観てない方にも、いや、観てない方にこそ、ぜひ観てほしい。
これは「ウルトラマン」が存在しなかった地球に初めて降り立った銀色の巨人の話。
そのセンス・オブ・ワンダーを感じてほしいです。
個人的には「音楽:宮内國郎 鷺巣詩郎」のクレジットに感激しました。
あと、マニアックな話をすると、居酒屋で流れてる歌がツボでした。 ちゃんと本編のドラマにも合ってる!
この映画がいろんな意味で心に刺さった方は、劇場でパンフレットと一緒に「シン・ウルトラマン デザインワークス」もぜひ入手することをお勧めします。
ビジュアルデザインだけでなく、作品そのもの(物語や世界観、テーマなど)のデザインについても触れた本なので。
イメージとしては「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」のときに発行されていた「全記録全集」のコンパクト版みたいな感じです。
なお、売り切れの劇場もあるみたいですが、増刷されるそうですし、後日一般販売の予定もあるそうです。
https://www.khara.co.jp/2022/04/18/sudw/
怪獣映画音楽コンサート「KAIJU CRESCENDO」
「KAIJU CRESCENDO」は2019年にシカゴで開催されたコンサートです。日本の怪獣映画音楽を70人を超えるオーケストラが演奏。ミレニアムシリーズ3作の音楽を手がけた大島ミチルさんが出演し、自作の組曲を指揮しました。
開催にあたって、クラウドファンディングが立ち上げられ、世界から支援を募ったんですね。私も特撮音楽ファン、大島ミチルファンのひとりとして支援しました。
無事コンサートは開催され、クラウドファンディングのリターンであるライブCDが到着しました。支援者特典のポストカード付きです。
本来はもっと早く届くはずだったのですが、世界がコロナ禍に突入してしまったため、CDの制作が遅れたそうです。
しかし、支援はコンサートを成功させるのが目的ですので、私はまったく気にしていませんでした。
コンサートは2部構成。
第1部は伊福部昭、佐藤勝の特撮怪獣映画音楽を演奏。指揮はジョン・デセンティス(John Desentis)。
『ゴジラ』『ラドン』『ゴジラの息子』『地球防衛軍』『日本誕生』『ゴジラ対メカゴジラ』からの選曲です。『日本誕生』が演奏されるのは珍しいのでは。『ゴジラ対メカゴジラ』は「ミヤラビの祈り」の歌入り。
シカゴのミュージシャンが演奏する伊福部昭、気のせいか日本のオーケストラよりスマートな響きに聴こえます。
第2部が本命で、大島ミチルさんが作曲したゴジラ映画音楽を特集。
『ゴジラ×メガギラス』『ゴジラ×メカゴジラ』『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』の3作の、それぞれ約10分におよぶ組曲です。
このコンサートのために大島ミチルさんがスコアを起こし、指揮も大島ミチルさん自身。
そして、コンサートのために書き下ろした新曲『G in Chicago「C.H.C.A.G.」』の初演も!
アンコールは大島ミチル版ゴジラのテーマ。
気迫すら感じられる渾身の演奏です。録音を聴いていても、会場の興奮と熱気が伝わってきます。燃えますね。
アンコールの手拍子と歓声を聴くと、大島ミチル版ゴジラのテーマがいかに海外のファンにも愛されているかがわかります。
すばらしいコンサートを応援できてよかったです。
残念ながらシカゴの会場で聴くことはできなかったので、CDを爆音で聴いてコンサートの雰囲気を体験したいと思います。
いつか、ぜひ日本でも!
このCD、Amazonやタワーレコードなどでも買えるようです。
ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス
『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』をIMAX 3Dで観てきました。
すごかった。堪能しました。
映像だけでお腹いっぱいです。
魔術師ドクター・ストレンジが主役で活躍する映画の2作目であり、昨年公開された『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021)に続いて、マルチバースを扱ったマーベル映画です。
見どころは、並行世界「マルチバース」の描写。そこは、この世界と似ているけれども異なる発展を遂げた世界であったり、あるいは、この世界とまったく異なるルールが支配する別世界であったりする。われわれの目からすると歪んだ世界や物理法則の異なる世界が登場し、シュールレアリスム絵画の中に入っていくような感覚があって、脳がぐるぐるします。『ウルトラマン』第17話「無限へのパスポート」(四次元怪獣ブルトン登場)の拡大版みたい。3Dで観た甲斐がありました。
サム・ライミ監督らしいホラーテイストもあり、魔女との戦いを軸としたダークファンタジーっぽい雰囲気がいい感じです。
音楽は1作目のマイケル・ジアッキーノに代わってダニー・エルフマンが担当。ティム・バートン監督作品で知られるダニー・エルフマンは、こういう題材にはまさに適任。ダイナミックでありつつも妖しく幻想的なスコアは本領発揮といったところです。
そういえば劇中で音楽を使った戦いのシーンがある。へたな作り方をすると漫画映画的なギャグになってしまいそうなところを(実際ユーモラスな味もある)、迫力あるシーンに仕上げた演出と映像技術に感心しました。
それにしても、本作といい、日本の特撮番組といい、ヒーローものはマルチバースが流行り、現実世界ではメタバースが流行しようとしてる。フィクションと現実が呼応してるのか? というより、同じ方向を向いている、ということなのでしょうね。
サウンドトラックは配信アルバムでリリース。
カレル・ゼマンの不思議な世界
ゴールデンウィーク中は家にこもって仕事をするいっぽう、新宿K'sシネマで開催されていたカレル・ゼマン特集「チェコ・ファンタジー・ゼマン!」に通っていました。
https://www.ks-cinema.com/movie/zeman/
カレル・ゼマンは50~70年代に主に活躍した映像作家・映画監督。独特の手法とこだわりでユニークきわまりない作品を作り上げた人です。
ユニークなのは、その画作り。合成、アニメ、トリック撮影など、あらゆる手法を使って、イメージする画をスクリーンに描き出す。アニメも、人形アニメ、切り紙アニメ、手描きアニメなど、さまざまな手法が使われる。
それだけをとれば、ほかの特撮映画監督もやっていることですが…。
ゼマンが活躍した時代は、日本ではゴジラシリーズをはじめとする特撮映画が、海外では『シンバッド七回目の航海』などのファンタジー映画や『猿の惑星』『2001年宇宙の旅』といったSF映画が作られた時期と重なる。非日常や異世界をリアルに描く特撮が発達した時代です。けれど、ゼマンの作品がそういった映画と異なるのは「リアル」をまったくめざしていないこと。むしろ、正反対に、作りものの幻想の中に観客を誘うような作風です。
たとえば、代表作に挙げられる『悪魔の発明』(1958)では銅版画の中に生身の人間が入り、いっしょに動いるような映像を見せてくれるし、『ほら男爵の冒険』(1961)では絵本か絵ハガキの世界に生身の人間が入っていくような感覚を味わわせてくれる。合成やセットであることはあきらかなのですが、それがレトロな雰囲気をかもしだし、独特の味になっている。
まるで、見世物小屋の出し物の延長として上映されていた時代の映画を観るよう。ジョルジュ・メリエスなんかの作品の直系の子孫と言ってもよい。ゼマンの作品を観ると、映画の原点を観るような気分になるのです。
ゼマンの映画は何本か観たことはあったのですが、未見の作品もたくさんあった。DVDは出ているけれど、やはり劇場で観たい。そこで、今回のゼマン特集です。劇場でゼマン作品を観るのは、実にぜいたくで心地よい体験でした。
今回初めて観て印象に残った作品をいくつか。
『鳥の島の財宝』(1952)
今回の特集で特に観たかった作品のひとつ。ゼマン初の長編作品。人形アニメによるメルヘンです。島で見つかった海賊の財宝をめぐって小さな村が大騒ぎになる。おとぎばなしのような素朴な物語と映像にほっこりします。ペリカンのキャラクターがラブリー。
人形で撮ったモブシーンがすごいなぁ。わらわらと動く群衆がみんな違う動きをしている。ゼマンの映画は基本手作り。手間がかかりそうな映像を「どう撮ったんだろう」と想像すると楽しい。
『前世紀探検』(1955)
実写特撮作品。少年たちが川を下りながら、前世紀を探検する物語。川を下っていくとともに時間もさかのぼり、マンモスの時代、恐竜の時代へと旅をする。なぜそうなるのかの説明は一切ない。それでいいのだ。少年たちが旅をする目的が科学的観察にあるので、少年冒険SFであると同時に科学啓蒙映画みたいな趣がある。妙に理屈っぽくて牧歌的です。
見どころはゼマンが作り出した前世紀の世界。コマ撮りアニメ、切り紙アニメ、合成やミニチュア特撮など、あの手この手で太古の世界を現出させる(川に浮かぶボートと少年がミニチュアだったり)。一見して作りものとわかる太古の生き物たちもいい感じ。博物館の中を旅しているような作品。恐竜好き必見です。
『盗まれた飛行船』(1966)
ジュール・ヴェルヌの『神秘の島』が原作。ネモ船長とノーチラス号も出てくる。ゼマンは主人公を5人の少年に変え、『宝島』みたいな冒険物語にアレンジ。飛行船と人力飛行艇の追っかけっこなど、宮崎アニメみたいな場面があるのが楽しい。
少年のゆくえを探す大人たちのあいだではナンセンスなドタバタが展開。『彗星に乗って』(1970)にもそういうシーンがあります。妙に既視感があるなぁと思いながら観ていて気がついた。レトロなタッチの切り紙アニメとナンセンスなギャグの組み合わせが「モンティ・パイソン」に似てる!
『クラバート』(1977)
これも特に観たかった作品のひとつ。切り紙アニメによるファンタジー。原作は児童文学好き、ファンタジー好きにはよく知られた名作。冷酷な親方のもとで魔法の修行をする少年たちの葛藤や友情を描く、ダークな雰囲気の物語です。
ドタバタもナンセンスなギャグもなく(コミカルなシーンは少しあるけど)、静かな緊張感の中で物語は進む。ちょっと宇野亜喜良っぽい絵柄が作品によく合っています。実写や漫画映画的なアニメだとこういう雰囲気は出せなかったと思う。作品の内容やテーマと手法がぴたりとマッチした傑作。音楽もよかった。
カレル・ゼマンの映画はトリック・フィルムと呼ばれているそうです。合成やアニメなどの技法を駆使し、撮影方法の工夫を凝らして驚異や幻想を描き出す。その映像は、子どもが描く絵のように自由奔放で、システマティックに作られた映画にはない魔術的な魅力があります。まさにイリュージョン。映像の魔術師・大林宣彦監督の作品との類似を指摘する批評があるのもうなずけます。
劇場は毎回のように7割~8割以上の観客が入って大盛況。年配の方もいますが、若い人が(男女問わず)けっこう観に来ている。ある回では制服姿の高校生らしい女の子がひとりで観に来ていた。
CG全盛の時代に、若い人はカレル・ゼマンをどう観るのかな。メモを取ってる人もいたので、もしかしたら授業で「観ておきなさい」と言われた学生もいるかもしれない。それでもいいんです。何か心に残るものがあるといいなと思います。
代表作『悪魔の発明』と『ほら男爵の冒険』はリマスター版Blu-rayが発売中。
こちらはそれ以外の作品を集めたDVD-BOX。